「シゲコラム」
齋藤滋子院長が提供するおはなし
月刊サイトウ歯科で10数年に連載されていたコラムです。
サイトウ歯科・磐田 院長 齋藤滋子の子供時代の話から歯の話まで独自の視点で書いています。
どうぞ、お楽しみ下さい。
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「むし歯を知らない子供たち」
白濁がCO、要注意歯であることを書きましたが、“それって、ムシ歯なの?”とびっくりされる方がおられ、かえって、こちらのほうが驚いてしまいました。
白濁ができるということは、歯がSOSを発している状態です。ところが、白濁の部分は、歯と歯肉の境目付近にでき易いため、場所によっては気付かなかったり、歯の汚れ(プラーク)の下に隠されていたり、もともとあったものと勘違いしていたりすることもあるようです。また、気付いていても、虫歯と知らないために放置して、進行させてしまう人がいるのは、残念なことです。
そもそも、白濁はどうして出来てくるのでしょうか。
キーワードは脱灰と再石灰化です。普段、口の中の唾液はほぼ中性のph7ですが、食事をすると、口の中のミュータンス菌はプラークと酸を作り始め、数分後にはph4.5程度と酸性度が強くなります。この時、歯の表面から、カルシウムやリン酸などが溶け出します。(これを脱灰といいます)口の中に食べ物がなくなると、唾液の酸を中和させる作用が働き、ph7近くに戻り始めます。この時、唾液に含まれるカルシウムとリン酸は歯の表面に吸着されます。(これを再石灰化といいます)このように、歯の表面では(-)の脱灰現象と(+)の再石灰化現象が常に起こり、揺れ動いているわけですが、この現象は全て目では確認できない、顕微鏡レベルでの話です。ただし、間食を頻繁にとったり、砂糖製品であるお菓子や清涼飲料等をだらだら口にしたりしていると、口の中が酸性になっている時間が長くなりますので、脱灰が進み、再石灰化が追いつかなくなってしまうのです。べったりついたプラークと歯の間でも同様の現象がおきますので、プラーク付着の形に脱灰が起こり、白く不透明になるのです。ただし、適切な予防管理ができれば、再石灰化は脱灰を上回り、虫歯になりかけの脱灰部分は進行を停止し、休止状態になる可能性もあるのです。
さて、虫歯の出来始めはそのようなことですが、一般的に、最近は、虫歯に対する知識は向上しています。若い親たちは、子供が虫歯にならないよう妊娠中から注意したり、仕上げ磨き、フッ素塗布、シーラント、砂糖の制限・・・・と、熱心です。その影響か、東京の診療室では、虫歯の治療は減っているそうです。私のいる地方では、まだまだ、学校検診の後はお子様タイムになってしまいますけど。とはいえ、やはり、全国的にみると、虫歯は減少傾向にあり、虫歯を一本も持たない、“虫歯を知らない子供たち”も確実にふえています。
以前、予防歯科の教授が、「12歳頃まで虫歯にならなかった子供はそれ以降虫歯にならない」というようなことを話しておられました。12歳ころまでに、虫歯のできないような生活習慣が身についてしまえばもう大丈夫という意味だと思います。理屈では同感です。しかしながら、最近ちょっと違うなと思うようになりました。つまり、虫歯を知らない子供たちも、親の管理から外れる年頃になると、学校のカバンの中に甘いお菓子を忍ばせてしょっちゅう食べるようになったり、新しい環境になって食事や生活習慣が変わったり、と言うような事で、口の中の環境も変化し、急に虫歯ができてくることもあるのです。親の思いが伝わっていなかったのかもしれませんが、ひょっとしたら、子供たち自身は、虫歯を知らなかったが為に、虫歯に対する警戒心が全く育ってなかったのかもしれません。くれぐれも、脱灰が再石灰化に勝ってしまうような生活はしてほしくないものです。前歯の白濁
奥歯の白濁
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